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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)143号 判決

神奈川県川崎市幸区堀川町72番地

原告

株式会社東芝

代表者代表取締役

西室泰三

訴訟代理人弁理士

津軽進

小栗久典

三好秀和

岩崎幸邦

鹿又弘子

中村友之

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

荒井寿光

指定代理人

祖父江榮一

菅野嘉昭

吉村宅衛

廣田米男

主文

1  特許庁が平成7年審判第3819号事件について平成8年3月15日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨

2  被告

(1)原告の請求を棄却する。

(2)訴訟費用は原告の負担とする。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「データベースシステム」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、昭和60年11月22日特許出願(昭和60年特許願第261286号)をしたところ、平成7年1月31日拒絶査定を受けた(同年2月22日謄本送達)ので、同年3月2日審判を請求し、平成7年審判第3819号事件として審理された結果、平成8年3月15日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成8年6月19日原告に送達された。

2  本願発明の要旨(特許請求の範囲第1項の記載)

供給される医用診断に係わる画像情報を記憶するアクセス時間が高速な記憶部材を有する第1のファイル手段と、この第1のファイル手段に記憶された画像情報の使用頻度を判定する使用頻度判定手段と、前記画像情報を蓄積するアクセス時間が前記第1のファイル手段よりは低速な記憶部材を有する第2のファイル手段と、前記使用頻度判定手段にて第1のファイル手段に記憶された画像情報について判定された使用頻度が所定値以下の画像情報については前記第2のファイル手段へ転送する転送制御手段と、前記画像情報の検索に際し、所望とする画像情報が前記第2のファイル手段に存在すればこれを検索要求先へ転送するとともに前記第1のファイル手段へ格納する検索制御手段とを備えたことを特徴とするデータベースシステム(別紙第1図面参照)

2  審決の理由の要点

(1)本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2)引用例の認定

これに対して、原査定の拒絶の理由として引用された昭和58年特許出願公開第158770号公報(以下「引用例1」という。)、昭和59年特許出願公開第90169号公報(以下「引用例2」という。)には、データベースシステムに関して次のような技術的事項が記載されている。

A 引用例1(別紙第2図面参照)

〈1〉 「発明の技術分野」について、「本発明は文書の整理作業を補助するに有用な文書ファイル装置に関する。」と記載されている(1頁左欄)。

また、従来技術に関して、「特に進行中の業務に関する文書や、懸案中の文書は、使用頻度や登録・廃棄が非常に多く、ファイル仕様の変更に伴う再ファイル化も頻繁である。この場合、文書ファイル装置に蓄積された文書の削除・登録等を繰り返すことが多く、それらの処理に文書ファイル装置を占有すると共に、多大な処理時間と蓄積量とを費やさざるを得なかった。特に、代表的な文書ファイル装置である光ディスク装置は、ほとんどが書換え不可能な記憶媒体である為に、使用上、上記の問題点を解決することが望まれていた。」ので、この発明の目的は、「文書の分類整理を効率良く実行し、しかも文書のファイルを効率良く行うことのできる実用性の高い文書ファイル装置を提供することにある。」と記載されている(2頁左右上欄)。

〈2〉 第1図を参照すると、文書を走査し、読み取る入力装置1、この読み取られた文書に検索情報を付与する指示入力装置2、検索情報に従い文書を蓄積記憶する、書換可能な記憶媒体からなる磁気ディスク装置等で構成される第1の文書蓄積装置(懸案ファイル)3、及び光ディスク装置等で構成される第2の文書蓄積装置(保管ファイル)4、検索装置5、出力装置6、制御部7、選択部8、からなる引用例1記載の発明の装置の概略構成図が記載されている。

〈3〉 第3図は、選択部8の一例を示すものであり、その作用に関して次のように記載されている。「検索登録部85は、指示入力部2より検索指示のあった文書を登録し、計数回路86で各文書の検索回数を計数する。計数結果は頻度算出部87に送られ、各文書の検索結果が算出される。選択制御部84は、その算出結果に基づいて、懸案ファイル3から保管ファイル4へ移すべき文書かどうかを判定する。保管ファイル4へ移すべき文書が存在する場合、選択制御部84は懸案ファイル3の文書を読み出して、保管ファイル4へ書き込み、蓄積記憶する。懸案中の文書の様に改訂、廃棄、統合が頻繁である場合は、当然ながら検索頻度は大きく、書換可能な懸案ファイル3に蓄積記憶し、業務の進行に応じて改訂、廃棄、統合が少なくなった場合に、書換不可能な大容量の保管ファイル4に移して蓄積記憶することになる。」と記載されている(3頁左右下欄)。

なお、選択部8の他の例として、第2図には文書登録部81、カレンダー82、比較判定部83、選択制御部84を設け、比較判定部が文書登録部とカレンダーとを比較し、懸案ファイル3に任意期間蓄積記憶された文書を選択し、結果を選択制御部に送ることにより、選択された文書を懸案ファイルから保管ファイルに送ること、が記載されている(3頁左右上欄)。

B 引用例2(別紙第3図面参照)

〈1〉 発明の技術分野として、「本発明は、2次局から入力した検索情報によって、1次局に登録されている画像情報を検索し、その検索結果を2次局に表示出力する画像情報検索装置に関する。」と記載されている(1頁右欄)。

また、従来、「2次局から入力した検索情報によって1次局に登録されている画像情報を検索する際、1次局の画像記憶情報に該当する画像記憶媒体が装着されていなかったり、あるいは他の用途で画像記憶装置が占有されていると、1次局での検索は全く行うことができず、1次局の画像記憶装置側の条件が整うまで2次局は同じ情報を何度も再送せねばならない。」という問題があったので、この発明の目的は、「2次局から入力した検索情報によって1次局に登録されている画像情報を検索する際、1次局の記憶装置が検索可能状態になるのを待って自動的に画像情報を検索することができ、同時にその間2次局を他の用途に使用することができ、他の用途による使用後に1次局から送信されてきた検索結果を2次局の出力装置で出力することのできる画像情報検索装置を提供することにある。」と記載されている(1頁右下欄ないし2頁左上欄)。

〈2〉 第1図の概略構成図を参照すると、1次局10と2次局30とは通信回線20を介して接続される(2次局は図示されていないが複数局設置されている)。1次局10は、通信制御装置11、制御装置12、入力装置13、表示装置14、磁気記憶装置や半導体メモリを用いた一時記憶装置15、光ディスク装置を用いた画像記憶装置16、個々の画像情報のファイル名等の管理情報を記憶する磁気記憶装置17で構成されている。

2次局30は、通信制御装置31、制御装置32、入力装置33、表示装置34、磁気記憶装置や半導体メモリ等を用いた一時記憶装置35で構成されている。

〈3〉 2次局から1次局に対して検索要求が出力されたときの動作に関して、「1次局10では、通信制御装置11が2次局30から送信された検索要求及び検索情報を受け取ると、制御装置12は記憶装置すなわち画像記憶装置16及び磁気記憶装置17が他の用途により占有されているか否か、及び画像記憶装置16に検索情報で指定された画像記憶媒体が装着されているか否かなど、検索可能状態にあるか否かをチェックする。このチェックの結果、記憶装置すなわち画像記憶装置16あるいは磁気記憶装置17が検索不能状態にあれば、制御装置12は2次局30から送信されてきた検索情報を一時記憶装置15に記憶する。・・・検索可能状態となると、制御装置12は一時記憶装置15から検索情報を読み出し、それを基に画像情報の検索を行う。」と記載されている(3頁左右上欄)。

(3)本願発明(前者)と引用例1記載の発明(後者)との一致点と相違点

〈1〉 前者において、「画像情報を光ディスクに記憶した場合には、アクセスタイムが長くなり、1度情報を書き込んだ場所に他の情報を書き込むことができないので、記憶容量が増加して、処理効率が悪いという問題があったので、本発明の目的は、データベースシステムの処理効率向上を実現可能にしたデータベースシステムの提供にある」との趣旨が記載されている(明細書11頁ないし12頁要約)。

後者においても、上記したように光ディスクを記憶媒体として使用した場合の検索時の問題点を解決することを発明の課題とするものであるから、発明の課題は両者で共通している。

〈2〉 後者において、「書換可能な記録媒体からなる磁気ディスク装置等で構成される懸案ファイル3」、「光ディスク装置で構成される保管ファイル装置4」は、それぞれ、前者の「画像情報を記憶するアクセス時間が高速な記憶部材を有する第1のファイル手段」、「画像情報を蓄積するアクセス時間が前記第1のファイル手段よりは低速な記憶部材を有する第2のファイル手段」に相当する。

〈3〉 後者の第3図に示された選択部8は、前者の「第1のファイル手段に記憶された画像情報の使用頻度を判定する使用頻度判定手段」に相当する。また、後者の該「選択部」は、前者と同様に使用頻度の少ない画像情報を懸案ファイル(磁気ディスク)から保管ファイル(光ディスク)に転送制御するものであるから、後者は前者の構成要件である「使用頻度判定手段にて第1のファイル手段に記憶された画像情報について判定された使用頻度が所定値以下の画像情報については前記第2のファイル手段へ転送する転送制御手段」を具備している。

〈4〉 後者の検索装置5は、前者の「画像情報の検索に際し、所望とする画像情報が前記第2のファイル手段に存在すればこれを検索要求先へ転送する検索制御手段」に該当する。

〈5〉 したがって、両者は

「画像情報を記憶するアクセス時間が高速な記憶部材を有する第1のファイル手段と、この第1のファイル手段に記憶された画像情報の使用頻度を判定する使用頻度判定手段と、画像情報を蓄積するアクセス時間が第1のファイル手段よりは低速な記憶部材を有する第2のファイル手段と、使用頻度判定手段にて第1のファイル手段に記憶された画像情報について判定された使用頻度が所定値以下の画像情報については第2のファイル手段へ転送する転送制御手段と、画像情報の検索に際し、所望とする画像情報が第2のファイル手段に存在すればこれを検索要求先へ転送する検索制御手段とを備えたことを特徴とするデータベースシステム。」

において一致し、前者が

a 供給される画像情報は医用診断に係わる情報であること。

b 検索制御手段は、第2のファイル手段に存在する情報を検索要求先に転送するとともに第1のファイル手段へ格納するものであること。

を構成要件としているのに対して、後者にはこのようなことが記載されていない点で相違している。

(4)相違点に対する判断

〈1〉 医用診断に係わる画像情報を記憶装置から検索するようなことは、引用例を提示するまでもなく周知慣用の技術であるから、後者において医用情報を画像情報の対象とするようなことは、単なる設計的事項に過ぎず、相違点aは格別なものではない。

〈2〉 画像情報に対するアクセス時間を短縮して効率的な情報検索を行うという点では、前者と技術思想において共通する引用例2には、画像記憶装置(光ディスク)から読み出した画像情報を、画像記憶装置よりもアクセス時間が高速な磁気記憶装置等の一時記憶装置に一旦記憶させておき、再度の画像記憶装置へのアクセスを行うことなく、直接該一時記憶装置から画像情報を読み出すこと、即ち、前者と同様の「アクセス時間が低速な第2のファイル(記憶)手段から、画像情報をアクセス時間が高速な第1のファイル(記憶)手段へ転送すること」が記載されている。

してみれば、後者も画像情報の検索頻度に応じて画像情報を記憶させる記憶手段を異ならせて、検索効率の向上を図るという点では前者と基本的な技術思想が共通しているから、このような技術思想を具体化するに当たり、後者の検索頻度の高い画像情報をアクセス時間が高速な懸案ファイルに蓄積させ、使用頻度の低い画像情報をアクセス速度が低速な保管ファイルに蓄積させる構成において、アクセス時間が低速な保管ファイルから画像情報を読み出すような検索処理を行う際に、読み出した画像情報を検索要求先へ転送処理するとともに、前者のように保管ファイルから読み出した画像情報をアクセス時間が保管ファイルよりも高速な懸案ファイルに格納する構成をも付加するようなことは、引用例2に記載のところから、当業者が格別な発明力を要することなく容易に想到、実施しうる事項であるから、相違点bも格別なものではない。

そして、本願発明により得られる効果も当業者が予測可能な範囲に止まるものであり、格別なものとはいえない。

(5)以上のとおりであるから、本願発明は上記引用例1及び引用例2各記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定によって特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の理由の要点(1)ないし(3)は認める。同(4)の〈1〉は認め、〈2〉は争う。同(5)は争う。

審決は、引用例2記載の発明の技術内容を誤認した結果、相違点bの判断を誤ったものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)引用例2記載の発明は、2次局30からの検索要求に応じて1次局10の(光ディスク等からなる)画像記憶装置16から検索された画像情報が、2次局30に送られて、2次局30が表示可能状態であれば直接表示装置34で表示され、2次局が表示可能状態でなければ、一旦、磁気記憶装置等からなる一時記憶装置35に記憶しておき、その後2次局が表示可能状態となれば、表示装置34で表示を行うというものである。つまり、引用例2記載の発明においては、1次局から送られてきた画像情報は、2次局が出力可能な状態の時には決して一時記憶装置35に記憶されることはないから、送られてきた画像情報が2次局で表示等されると同時に、一時記憶装置35に記憶されることはあり得ない。

上記から明らかなように、引用例2には本願発明の「前記画像情報の検索に際し、所望とする画像情報が前記第2のファイル手段に存在すればこれを検索先へ転送するとともに前記第1のファイル手段へ格納する」という構成は全く開示されていない。

したがって、引用例2に、本願発明と同様の「アクセス時間が低速な第2のファイル(記憶)手段から、画像情報をアクセス時間が高速な第1のファイル(記憶)手段へ転送すること」が記載されているとした審決の認定は誤りである。

(2)さらに、引用例2記載の発明においては、1次局で検索した画像情報が2次局で出力可能な状態のときには一時記憶装置に当該画像情報が記憶されることがないのであるから、たとえ当該画像情報の表示等を行った直後に同一の画像情報が再度必要となった場合であっても、光ディスク装置等からなる1次局の画像記憶装置から当該画像の検索をもう一度行う必要がある。すなわち、引用例2記載の発明は、別の機会に、同じ画像について検索要求が2次局から来た場合の検索効率の向上について全く考慮されておらず、このような場合には必ず1次局の画像記憶装置から当該画像を検索しなくてはならない。

これに対して、本願発明は、「前記画像情報の検索に際し、所望とする画像情報が前記第2のファイル手段に存在すればこれを検索要求先へ転送するとともに前記第1のファイル手段へ格納する」ため、第2のファイルから検索が行われた画像情報を当該検索の時から所定の期間内に再度検索する場合には、常に、アクセス時間の高速な第1のファイルから検索することが可能となり、検索時間の短縮を図ることができる。通常、治療において、患者は一定期間内に複数回の診察・治療を受けるため、一度診察等のために検索された医用画像は所定期間内に再度必要とされる場合が多いから、引用例2記載の発明と異なり、本願発明は検索効率向上という作用効果を奏するのである。

以上のとおり、引用例2記載の発明は本願発明と同様の作用効果を奏することができない。

(3)上記のとおり、引用例2には、本願発明の「前記画像情報の検索に際し、所望とする画像情報が前記第2のファイル手段に存在すればこれを検索要求先へ転送するとともに前記第1のファイル手段へ格納する」という構成が開示されていないこと、及び本願発明は引用例2記載の発明にない格別の作用効果を奏することからすれば、「アクセス時間が低速な保管ファイルから画像情報を読み出すような検索処理を行なう際に、読み出した画像情報を検索要求先へ転送処理するとともに、前者のように保管フアイルから読み出した画像情報をアクセス時間が保管ファイルよりも高速な懸案ファイルに格納する構成を付加するようなことは、引用例2に記載のところから、当業者が格別な発明力を要することなく容易に想到、実施しうる事項であるから、相違点bも格別なものではない。そして、本願発明により得られる効果も当業者が予測可能な範囲に止まるものであり、格別なものとはいえない」とした審決の認定判断が誤っていることは明らかである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3の事実は認め、同4は争う。審決に誤りはなく、何ら違法な点は存在しない。

2  被告の主張

引用例2記載の発明は、検索要求元である2次局が1次局から転送されて来た検索画像情報を利用できない状態の時、該画像情報を一時記憶装置に記憶しておき、利用可能となった時、1次局に再度の要求を発することなく、その記憶された画像情報を利用することにより処理のオーバーヘッドを減少させている。これは、「画像記憶装置(光ディスク)から読み出した画像情報を、画像記憶装置よりアクセス時間が高速な磁気記憶装置等の一時記憶装置に一旦記憶させておき、再度の画像記憶装置へのアクセスを行うことなく、直接該一時記憶装置から画像情報を読み出すこと」に相当することは明らかである。

このように、相違点bは、本願発明が引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を適用し、低速記憶装置である保管ファイル4からデータを読み出した際、該データを要求元に転送するとともに、小容量の高速記憶装置である懸案ファイル3にも書き込んでおく構成にしたことによるものである。

以上のように、相違点bは、引用例2記載の発明の単純な適用によるものにすぎない。

さらに、原告が主張する検索効率の向上を図るという作用効果についても、格別のものとはいえない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録の記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

第2  本願発明の概要について

成立に争いのない甲第4号証中の本願明細書、甲第6号証(平成7年4月3日付手続補正書)によれば、本願明細書に記載された本願発明の概要は以下のとおりと認められる。

1  本願発明は、情報を記憶するデータベースシステムに係り、特にネットワークシステムからの画像情報をファイリング可能なデータベースシステムに関係する。(本願明細書9頁9行ないし12行)

従来のこのようなシステムにおいてデータベースシステム407は、その情報を記憶するための装置が例えば半導体メモリ、磁気テープ、磁気ディスクのような再書込み可能ないわゆるイレーザブルな記憶装置か又は、例えば光ディスク装置のような再書込み不可能ないわゆるノンイレーザブルな記憶装置のどちらか一方しか使用されていない。特に画像情報を記憶するデータベースシステムにおいては数ギガバイト以上という大容量の記憶装置が必要となり、その結果記憶密度の高いノンイレーザブルな記憶装置(例えば光ディスク装置)を使用しなければならない。ところが光ディスク装置は・・・その記憶された画像のアクセス時間が800mSと長い欠点がある。(本願明細書10頁下から1行ないし11頁14行)

それに加えて画像のような大容量の記憶装置にはノンイレーザブルな記憶装置が使用されているために1度記録してしまった場所には、再び他の情報を書き込むことはできない。・・・このように従来のデータベースシステムでは、その処理の効率が悪い。(本願明細書11頁20行ないし12頁7行)

2  本願発明はこのような事情に基づいてなされたもので、データベースシステムの処理効率向上を実現可能にしたデータベースシステムを提供することを目的とする。(本願明細書12頁9行ないし12行)

この目的を達成するために、本願発明は、特許請求の範囲第1項に記載された構成を備えたものである。(前記補正書2枚目5行ないし14行)

3  本願発明によれば使用頻度の比較的高い情報はイレーザブルな記憶装置に記憶し、使用頻度の比較的低い情報はノンイレーザブルな記憶装置に記憶させ、さらに、一旦はアクセス時間が低速な第2のファイル手段に記憶された画像情報であっても、後にアクセスされると、次はアクセス時間が第2のファイル手段よりは高速な第1のファイル手段に記憶され、以後は、元来第1のファイル手段に記憶された画像情報と同様に扱われることによりデータベースシステムの処理効率向上を実現することができる。(本願明細書52頁下から1行ないし53頁4行、前記補正書2枚目下から5行ないし1行)

第3  審決の取消事由について

1  本願発明の検索制御手段は、第2のファイル手段に存在する情報を検索要求先に転送するとともに第1のファイル手段へ格納するものであることを構成要件としているのに対して、引用例1記載の発明はこのような構成を備えていない点で相違していることは、当事者間に争いがない。

2  引用例2記載の発明について

(1)成立に争いのない甲第2号証(引用例2)によれば、引用例2には次の記載があることが認められる。

「本発明は、2次局から入力した検索情報によって1次局に登録されている画像情報を検索し、その検索結果を2次局に表示出力する画像情報検索装置に関する。」(1頁右欄12行ないし15行)。「(引用例2記載の発明の目的は、)2次局から入力した検索情報によって1次局に登録されている画像情報を検索する際、1次局の記憶装置が検索可能状態になるのを待って自動的に画像情報を検索することができ、同時にその間2次局を他の用途に使用することができ、他の用途による使用後に1次局から送信されてきた検索結果を2次局の出力装置で出力することのできる画像情報検索装置を提供することにある。」(2頁左上欄12行ないし下から1行)、「本発明は、1次局および2次局にそれぞれ画像情報などを一時記憶するための一時記憶装置を設け・・・(1次局の)検索結果が2次局に送信されたとき、2次局が出力不能状態にある場合、1次局から送信されてきた検索結果を上記一時記憶装置に一時記憶しておき、しかるのち2次局が出力可能状態になると、上記一時記憶装置内の検索結果を出力するようにしたものである。」(2頁右上欄2行ないし17行)、「(1次局の)画像記憶装置16は、大量の画像情報を記憶(登録)し、その記憶内容を読出す機能を持ち、制御装置12の制御によって動作するもので、たとえば光ディスク装置などを用いる。磁気記録装置17は、個々の画像情報の・・・管理情報を記憶し、その記憶内容を読出す機能を持ち、制御装置12の制御によって動作する。」(2頁右下欄1行ないし8行)、「(2次局の)出力装置たとえば表示装置34は、画像情報、漢字を含む文字情報、図形情報などを表示するためのもので、制御装置32の制御によって各装置から送られてくる情報を表示する。一時記憶装置35は、送受信する画像情報、管理情報、制御情報などを一時記憶しておくためのもので、たとえば磁気記憶装置や半導体メモリなどを用いる。」(2頁右下欄16行ないし3頁左上欄3行)、「(2次局から送信されてきた検索情報により1次局での)画像情報の検索が終了すると、・・・その情報(検索結果)を2次局30・・・に送信する。2次局30では、・・・制御装置32(「12」とあるのは誤記と認める。)は表示装置34が他の用途により占有されているか否か、あるいは2次局30が他のプログラムを実行しているか否かなど、表示可能状態にあるか否かをチェックする。このチェックの結果、2次局30が表示不能状態にあれば、制御装置32は1次局10から送信されてきた検索結果を一時記憶装置35に記憶し、以後・・・表示可能状態になるのを待機する。・・・表示可能状態になると、制御装置32は一時記憶装置35から検索結果を読出し、それを表示装置34で表示する。なお、前記チェックの結果、2次局30が表示可能状態にあれば、受信した検索結果を直接、表示装置34で表示する。」(3頁右上欄12行ないし左下欄12行)

(2)以上の記載によれば、引用例2記載の発明は、画像記憶装置から送られてくる検索結果を表示する2次局が表示可能状態にあれば検索結果を直接表示するが、他の用途に占有されている等で表示不能状態であれば検索結果を一時記憶装置に記憶し、表示可能状態になると一時記憶装置から読み出して表示装置で表示するものであると認められる。そうすると、引用例2記載の発明においては、画像情報を一時記憶装置(第1のファイル手段)へ記憶(格納)するのは、2次局(検索要求先)が表示不能状態の時に限られ、2次局(検索要求先)が使用可能状態であれば、それに転送するのみであって、上記転送とともに一時記憶装置(第1のファイル手段)へ記憶(格納)することはないと解されるから、引用例2記載の発明は、本願発明と引用例1記載の発明の相違点である「検索制御手段は、第2のファイル手段に存在する情報を検索要求先へ転送するとともに第1のファイル手段へ格納する」という構成を備えていない。

(3)したがって、引用例2に、「(本願発明)と同様の「アクセス時間が低速な第2のファイル(記憶)手段から、画像情報をアクセス時間が高速な第1のファイル(記憶)手段へ転送すること」が記載されているとした審決は、認定を誤ったものである。

3  もっとも、被告は、引用例2記載の発明は、1次局に再度の要求を発することなく、一時記憶装置に記憶された画像情報を利用して処理のオーバーヘッドを減少させているものであるから、これは、「画像記憶装置(光ディスク)から読み出した画像情報を、画像記憶装置よりアクセス時間が高速な磁気記憶装置等の一時記憶装置に一旦記憶させておき、再度の画像記憶装置へのアクセスを行うことなく、直接該一時記憶装置から画像情報を読み出すこと」に相当し、相違点bは、引用例2記載の発明の単純な適用によるものにすぎないと主張する。

しかしながら、引用例2記載の発明が「検索制御手段は、第2のファイル手段に存在する情報を検索要求先へ転送するとともに第1のファイル手段へ格納する」という構成を備えていないことは前示のとおりである。そして、引用例2記載の発明は、2次局が使用可能状態であれば、画像情報を一時記憶装置に記憶させておくことはないから、その後別の機会に検索する場合には、1次局の画像記憶装置への再度のアクセスを行わなければならない。また、引用例2記載の発明の一時記憶装置は、2次局が表示不能状態の時に限って記憶する一時的な記憶場所であって、一旦記憶した画像情報も、一旦2次局が該画像情報を表示した後は、その役割を果たしたことになるから、不要であって通常は消去されるべきものと解される。したがって、これについて、その後別の機会に検索する場合には、やはり1次局の画像記憶装置への再度のアクセスを行うことが予定されていると認められる。

これに対し、本願発明が、一度、第2のファイル手段から検索が行われた画像情報は全て第1のファイル手段に記憶され、当該検索から所定の期間内であれば、その後別の機会に検索する場合であっても、第2のファイル手段への再度のアクセスが必要ではないことは前記第2認定の事実から明らかである。

したがって、相違点bが引用例2記載の発明の単純な適用にすぎないということはできないから、被告の主張は採用できない。

4  以上のとおり、引用例2記載の発明は相違点bの構成を備えておらず、これを引用例1記載の発明に適用しても、相違点bの構成を得ることはできない。そして、本願発明は、相違点bの構成により、一旦はアクセス時間が低速な第2のファイル手段に記憶された画像情報であっても、後にアクセスされると、次はアクセス時間が第2のファイル手段よりは高速な第1のファイル手段に記憶され、以後は、元来第1のファイル手段に記憶された画像情報と同様に扱われることによりデータベースシステムの処理効率向上を実現することができるという作用効果を奏すること前記第2認定の事実から明らかである。したがって、相違点bについて、引用例1及び引用例2記載の発明に基づいて当業者が容易に想到できたとした審決は、相違点の判断を誤ったものであり、この誤りが、審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は、違法として取消しを免れない。

第4  結論

よって、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日・平成10年2月10日)

(裁判長裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司 裁判官 山田知司)

別紙第1図面

〈省略〉

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別紙第2図面

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別紙第3図面

〈省略〉

〈省略〉

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